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Ise Monogatari. Часть I


11 янв 2008. Разместил: Vadim
Дополнительное чтение по японскому языку.
Уровень сложности - высокий.

伊勢物語(群書類従物語部) - Часть 1

Исэ Моноготари

 

Часть 1 Часть 2 Часть 3


1

むかし、おとこ、うゐかうぶりして、ならの京、かすがのさとに、しるよしゝて、かりにいにけり。そのさとに、いとなまめいたるをむなはらからすみけり。このおとこかいまみてけり。おもほえずふるさとにいとはしたなくてありければ、心地まどひにけり。おとこのきたりけるかりぎぬのすそをきりて、うたをかきてやる。そのおとこ、しのぶずりのかりぎぬをなむきたりける。かすがのゝわかむらさきのすり衣しのぶのみだれかぎりしられずとなむをいづきていひやりける。ついでおもしろきことゝもやおもひけむ。みちのくのしのぶもぢすりたれゆへにみだれそめにし我ならなくにといふ哥のこゝろばへ也。むかし人は、かくいちはやき、みやびをなむしける。


2

むかし、おとこありけり。ならの京はゝなれ、この京は人のいゑまださだまらざりける時に、ゝしの京に女ありけり。その女世人にはまされりけり。その人、かたちよりはこゝろなむまさりたりける。ひとりのみもあらざりけらし、それをかのまめおとこ、うちものがたらひて、かへりきていかゞおもひけむ、時はやよひのついたち、あめそをふるにやりける。おきもせずねもせでよるをあかしてははるのものとてながめくらしつ


3

むかし、おとこありけり。けさうじける女のもとに、ひじきもといふ物をやるとて、おもひあらばむぐらのやどにねもしなむひじきものにはそでをしつゝも二条のきさきの、まだみかどにもつかうまつりたまはで、たゞ人にておはしましける時のことなり。


4

むかし、ひむがしの五条に、おほきさいの宮おはしましけるにしのたいに、すむ人ありけり。それをほいにはあらで、心ざしふかゝりける人、ゆきとぶらひけるを、む月の十日許のほどに、ほかにかくれにけり。ありどころはきけど、人のいきかよふべき所にもあらざりければ、なをうしとおもひつゝなむ有ける。又の年のむ月に、むめのはなざかりに、こぞをこひていきて、たちて見、ゐて見ゝれど、こぞにゝるべくもあらず。うちなきて、あばらなるいたじきに月のかたぶくまでふせりて、こぞを思いでゝよめる。月やあらぬはるやむかしのはるならぬわが身ひとつはもとの身にしてとよみて、よのほのぼのとあくるに、なくなくかへりにけり。


5

むかし、おとこ有けり。ひむがしの五条わたりに、いとしのびていきけり。みそかなるところなれば、かどよりもえいらで、わらはべのふみあけたるついひぢのくづれよりかよひけり。ひとしげくもあらねど、たびかさなりければ、あるじきゝつけて、そのかよひぢに、夜ごとに人をすへてまもらせければ、いけどえあはでかへりけり。さてよめる。ひとしれぬわがゝよひぢのせきもりはよひよひごどにうちもねなゝむとよめりければいといたくこゝろやみけり。あるじゆるしてけり。二条のきさきにしのびてまいりけるを、世のきこえありければ、せうとたちのまもらせたまひけるとぞ。


6

昔おとこありけり。女のえうまじかりけるを、としをへてよばひわたりけるを、からうじてぬすみいでゝ、いとくらきにきけり。あくた河といふかはをゐていきければ、くさのうへにをきたりけるつゆを、かれはなにぞとなむおとこにとひける。ゆくさきおほく、夜もふけにければ、おにある所ともしらで、神さへいといみじうなり、あめもいたうふりければ、あばらなるくらに、女をばおくにをしいれて、おとこ、ゆみ、やなぐひをおひて、とぐちにをり。はや夜もあけなむと思つゝゐたりけるに、おにはやひとくちにくひてけり。あなやといひけれど、神なるさはぎにえきかざりけり。やうやう夜もあけゆくに、見ればゐてこし女もなし。あしずりをしてなけどもかひなし。しらたまかなにぞと人のとひし時つゆとこたへてきえなましものをこれは、二条のきさきの、いとこの女御の御もとに、つかうまつるやうにてゐたまへりけるを、かたちのいとめでたくおはしければ、ぬすみておひていでたりけるを、御せうとほりかはのおとゞ、たらうくにつねの大納言、まだ下らうにて内へまいりたまふに、いみじうなく人あるをきゝつけて、とゞめてとりかへしたまうてけり。それをかくおにとはいふなり。まだいとわかうて、きさきのたゞにおはしましける時とや。


7

むかし、おとこありけり。京にありわびて、あづまにいきけるに、伊勢おはりのあはひのうみづらをゆくに、なみのいとしろくたつを見て、いとゞしくすぎゆく方のこひしきにうらやましくもかへるなみ哉となむよめりける。


8

むかし、おとこありけり。京やすみうかりけむ、あづまのかたにゆきて、すみ所もとむとて、ともとする人ひとりふたりしてゆきけり。しなのゝくに、あさまのたけにけぶりのたつを見て、しなのなるあさまのたけにたつけぶりをちこちびとのみやはとがめぬ


9

むかし、おとこありけり。そのおとこ、身をえうなきものに思なして、京にはあらじ、あづまの方にすむべきくにもとめにとてゆきけり。もとよりともとする人、ひとりふたりしていきけり。みちしれる人もなくて、まどひいきけり。みかはのくに、やつはしといふ所にいたりぬ。そこをやつはしといひけるは、水ゆく河のくもでなれば、はしをやつわたせるによりてなむ、やつはしとはいひける。そのさはのほとりの木のかげにおりゐて、かれいひくひけり。そのさはにかきつばたいとおもしろくさきたり。それを見て、ある人のいはく、かきつばたといふいつもじをくのかみにすへて、たびのこゝろをよめ、といひければよめる。から衣きつゝなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞ思とよめりければ、みなひと、かれいひのうへになみだおとしてほとびにけり。ゆきゆきて、するがのくにゝいたりぬ。うつの山にいたりて、わがいらむとするみちは、いとくらうほそきに、つた、かえではしげり、ものごゝろぼそく、すゞろなるめを見ることゝおもふ、す行者あひたり。かゝるみちはいかでかいまする、といふを見れば見し人なりけり。京に、その人の御もとにとて、ふみかきてつく。するがなるうつの山辺のうつゝにもゆめにもひとにあはぬなりけりふじの山を見れば、さ月のつごもりに、雪いとしろうふれり。時しらぬ山はふじのねいつとてかかのこまだらに雪のふるらむその山は、こゝにたとへば、ひえの山をはたち許かさねあげたらむほどして、なりはしほじりのやうになむありける。なをゆきゆきて、むさしのくにとしもつふさのくにとの中に、いとおほきなる河あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりにむれゐておもひやれば、かぎりなくとをくもきにけるかなとわびあへるに、わたしもり、はやふねにのれ、日もくれぬ、といふに、のりてわたらむとするに、みなひと、ものわびしくて、京におもふ人なきにしもあらず。さるおりしも、しろきとりのはしとあしとあかき、しぎのおほきさなる、水のうへにあそびつゝいをゝくふ。京には見えぬとりなれば、みな人、見しらず。わたしもりにとひければ、これなむ宮こどり、といふをきゝて、名にしおはゞいざことゝはむ宮こどりわがおもふ人はありやなしやととよめりければ、ふねこぞりてなきにけり。


10

むかし、おとこ、むさしのくにまでまどひありきけり。さて、そのくにゝある女をよばひけり。ちゝはこと人にあはせむといひけるを、はゝなむあてなる人に心つけたりける。ちゝはなお人にて、はゝなむふぢはらなりける。さてなむあてなる人にとおもひける。このむこがねによみてをこせたりける。すむところなむ、いるまのこほり、みよしのゝさとなりける。みよしのゝたのむのかりもひたぶるにきみがゝたにぞよるとなくなるむこがねかへし、わが方によるとなくなるみよし野ゝたのむのかりをいつかわすれむとなむ。人のくにゝても、猶かゝる事なむ、やまざりける。


11

昔おとこ、あづまへゆきけるに、ともだちどもに、みちよりいひをこせける。わするなよほどはくもゐになりぬともそら行月のめぐりあふまで


12

むかし、おとこ有けり。人のむすめをぬすみて武蔵野へゐてゆくほどに、ぬす人なりければ、くにのかみにからめられにけり。女をばくさむらの中にをきて、にげにけり。みちくる人、このゝはぬす人あなりとて、火つけむとす。女、わびて、むさしのはけふはなやきそわかくさのつまもこもれり我もこもれりとよみけるをきゝて、女をばとりて、ともにゐていにけり


13

昔、武蔵なるおとこ、京なる女のもとに、きこゆればゝづかし、きこえねばくるし、とかきて、うはがきにむさしあぶみとかきて、をこせてのち、をともせずなりにければ、京より女、むさしあぶみさすがにかけてたのむにはとはぬもつらしとふもうるさしとあるを見てなむ、たへがたき心地しける。とへばいふとはねばうらむゝさしあぶみかゝるおりにや人はしぬらむ


14

むかし、おとこ、みちのくにゝ、すゞろにゆきいたりにけり。そこなる女、京の人はめづらかにやおぼえけむ、せちにおもへる心なむありける。さてかの女、なかなかにこひにしなずはくはこにぞなるべかりけるたまのをばかりうたさへぞひなびたりける。さすがにあはれとやおもひけむ、いきてねにけり。夜ふかくいでにけれは、女夜もあけばきつにはめなでくたかけのまだきになきてせなをやりつるといへるに、おとこ、京へなむまかるとて、くりはらのあねはの松の人ならば宮このつとにいざといはましをといへりければ、よろこぼひて、おもひけらし、とぞいひをりける


15

昔みちのくにゝて、なでうことなき人のめにかよひけるに、あやしうさやうにてあるべき女ともあらず見えければ、忍山しのびてかよふみちもがなひとの心のおくも見るべく女、かぎりなくめでたしとおもへど、さるさがなきえびす心を見ては、いかゞはせむは。


16

むかし、きのありつねといふ人ありけり。みよのみかどにつかうまつりて、時にあひけれど、のちは世かはり、時うつりにければ、世のつねの人のごともあらず、人がらは、心うつくしうあてはかなることをこのみて、ことに人にもにず、まづしくへても、猶昔よかりし時の心ながら、世のつねのこともしらず。としごろあひなれたるめ、やうやうとこはなれて、つゐにあまになりて、あねのさきだちてなりたるところへゆくを、おとこ、まことにむつまじき事こそなかりけれ、いまはとゆくを、いとあはれと思けれど、まづしければするわざもなかりけり。おもひわびて、ねむごろにあひかたらひけるともだちのもとに、かうかういまはとてまかるを、なにごともいさゝかなることもえせで、つかはすことゝかきて、おくに、手をゝりてあひ見しことをかぞふればとおといひつゝよつはへにけりかのともだちこれを見て、いとあはれとおもひて、よるのものまでをくりてよめる。年だにもとおとてよるはへにけるをいくたびきみをたのみきぬらむかくいひやりたりければ、これやこのあまのは衣むべしこそきみがみけしとたてまつりけれよろこびにたへで、又、秋やくるつゆやまがふとおもふまであるはなみだのふるにぞありける


17

としごろ、をとづれざりける人の、さくらのさかりに見にきたりければ、あるじあだなりと名にこそたてれさくら花としにまれなる人もまちけり返し、けふこずばあすは雪とぞふりなましきえずは有とも花と見ましや


18

むかし、まな心ある女ありけり。おとこちかうありけり。女、うたよむ人なりければ、心見むとて、きくの花のうつろへるをゝりて、おとこのもとへやる。くれなゐにゝほふはいづらしらゆきのえだもとをゝにふるかとも見ゆおとこ、しらずによみによみける。くれなゐにゝほふがうへのしらぎくは折ける人のそでかとも見ゆ


19

むかし、おとこ、みやづかへしける女のかたに、ごたちなりける人をあひしりたりける。ほどもなくかれにけり。おなじ所なれば、女のめには見ゆるものから、おとこはある物かとも思たらず、女、あまぐものよそにも人のなりゆくかさすがにめには見ゆる物からとよめりければ、おとこ、返し、あまぐものよそにのみしてふることはわがゐる山の風はやみなりとよめりけるは、またおとこなる人なむといひける。


20

むかし、おとこやまとにある女を見て、よばひてあひにけり。さてほどへて、宮づかへする人なりければ、かへりくるみちに、やよひばかりに、かえでのもみぢのいとおもしろきをゝりて、女のもとにみちよりいひやる。きみがためたおれるえだははるながらかくこそ秋のもみぢしにけれとてやりたりければ、返事は京にきつきてなむ、もてきたりける。いつのまにうつろふいろのつきぬらむきみがさとにはゝるなかるらし


21

むかし、おとこ女、いとかしこくおもひかはして、こと心なかりけり。さるをいかなる事かありけむ、いさゝかなることにつけて、世中をうしと思て、いでゝいなむと思て、かゝる哥をなむよみて、ものにかきつけゝる。いでゝいなば心かるしといひやせむ世のありさまを人はしらねばとよみをきて、いでゝいにけり。この女かくかきをきたるを、けしう心をくべきこともおばえぬを、なにゝよりてかかゝらむといといたうなきて、いづ方にもとめゆかむとかどにいでゝ、と見かう見ゝけれど、いづこをばかりともおぼえざりければ、かへりいりて、おもふかひなき世なりけりとし月をあだにちぎりてわれやすまひしといひてながめをり。人はいさおもひやすらむたまかづらおもかげにのみいとゞ見えつゝこの女いとひさしくありて、ねむじわびてにやありけむ、いひをこせたる。いまはとてわするゝくさのたねをだに人の心にまかせずもがな返しわすれ草うふとだにきく物ならばおもひけりとはしりもしなまし又々ありしよりけにいひかはして、おとこわする覧と思心のうたがひにありしよりけに物ぞかなしき返し、なかぞらにたちゐるくものあともなく身のはかなくもなりにける哉とはいひけれど、をのが世ゝになりにければ、うとくなりにけり。


22

むかし、はかなくてたえにけるなか、猶やわすれざりけむ、女のもとより、うきながら人をばえしもわすれねばかつうらみつゝ猶ぞこひしきといへりければ、さればよといひて、おとこ、あひ見ては心ひとつをかはしまの水のながれてたえじとぞ思とはいひけれど、そのよいにけり。いにしへゆくさきのことゞもなどいひて、秋の夜のちよをひと夜になずらへてやちよしねばやあく時のあらむ返し、あきの夜のちよをひとよになせりともことばのこりてとりやなきなむいにしへよりもあはれにてなむかよひける。


23

昔、ゐなかわたらひしける人のこども、ゐのもとにいでゝあそびけるを、おとなになりにければ、おとこも女もはぢかはしてありけれど、おとこはこの女をこそえめとおもふ。女はこのおとこをとおもひつゝ、おやのあはすれどもきかでなむありける。さて、このとなりのおとこのもとよりかくなむ。つゝゐつのゐづゝにかけしまろがたけすぎにけらしもいもみざるまにをむな、返しくらべこしふりわけ神もかたすぎぬきみならずしてたれかあぐべきなどいひいひて、つゐにほいのごとくあひにけり。さてとしごろふるほどに、女、おやなくたよりなくなるまゝに、もろともにいふかひなくてあらむやはとて、かうちのくに、たかやすのこほりに、いきかよふ所いできにけり。さりけれど、このもとの女、あしとおもへるけしきもなくて、いだしやりければ、おとこ、こと心ありてかゝるにやあらむと思ひうたがひて、せんざいのなかにかくれゐて、かうちへいぬるかほにて見れば、この女、いとようけさうじて、うちながめて風ふけばおきるしらなみたつた山夜はにやきみがひとりこゆらむとよみけるをきゝて、かぎりなくかなしと思て、かうちへもいかずなりにけり。まれまれかのたかやすにきて見れば、はじめこそ心にくもつくりけれ、いまはうちとけて、ゝづからいゐがひとりて、けこのうつはものにもりけるを見て、心うがりていかずなりにけり。さりければ、かの女、やまとの方を見やりて、きみがあたり見つゝをゝらむいこま山雲なかくしそ雨はふるともといひて見いだすに、からうじてやまと人、こむといへり。よろこびてまつにたびたびすぎぬれば、きみこむといひし夜ごとにすぎぬればたのまぬものゝこひつゝぞぬるといひけれど、おとこすまずなりにけり。


24

昔、おとこ、かたゐなかにすみけり。おとこ、宮づかへしにとて、わかれおしみてゆきにけるまゝに三とせこざりければ、まちわびたりけるに、いとねむごろにいひける人に、こよひあはむとちぎりたりけるを、このおとこきたりけり。このとあけたまへとたゝきけれど、あけで、うたをなむよみていだしたりける。あらたまのとしの三とせをまちわびてたゞこよひこそにゐまくらすれといひいだしたりければ、あづさゆみまゆみつきゆみとしをへてわがせしがごとうるはしみせよといひて、いなむとしければ、女、あづさゆみひけどひかねどむかしより心はきみによりにしものをといひけれど、おとこかへりにけり。女いとかなしくて、しりにたちてをひゆけど、えをひつかで、し水のある所にふしにけり。そこなりけるいはに、およびのちしてかきつけゝる。
あひおもはでかれぬる人をとゞめかねわが身はいまぞきえはてぬめるとかきて、そこにいたづらになりにけり。


25

むかし、おとこありけり。あはじともいはざりける女の、さすがなりけるがもとにいひやりける。秋のゝにさゝわけしあさのそでよりもあはでぬるよぞひぢまさりけるいろごのみなる女、返し、見るめなきわが身をうらとしらねばやかれなであまのあしたゆくゝる


26

むかし、おとこ、五条わたりなりける女を、えゝずなりにけることゝ、わびたりける人の返ごとに、おもほえずそでにみなとのさはぐかなもろこしぶねのよりし許に


27

むかし、おとこ、女のもとにひとよいきて、又もいかずなりにければ、女のてあらふところにぬきすをうちやりて、たらひのかげに見えけるを、みづから、我許物思人は又もあらじとおもへば水のしたにもありけりとよむをかのこざりけるおとこたちきゝて、みなくちにわれや見ゆらむかはづさへ水のしたにてもろごゑになく


28

むかし、いろごのみなりける女、いでゝいにければ、などてかくあふごかたみになりにけむ水もらさじとむすびしものを


29

むかし春宮の女御の御方の花の賀に、めしあづけられたりけるに花にあかぬなげきはいつもせしかどもけふのこよひにゝる時はなし


30

むかし、おとこ、はつかなりける女のもとに、あふことはたまのをばかりおもほえてつらき心のながく見ゆらむ


31

昔、宮のうちにて、あるごたちのつぼねのまへをわたりけるに、なにのあたにかおもひけむ、よしやくさばなのならむさが見む、といふ。おとこつみもなき人をうけへばわすれぐさをのがうへにぞおふといふなるといふを、ねたむ女もありけり。


32

むかし、ものいひける女に、としごろありて、いにしへのしづのをだまきくりかへしむかしをいまになすよしもがなといへりけれど、なにともおもはずやありけむ。


33

むかし、おとこ、つのくに、むばらのこほりにかよひける女、このたびいきては又はこじと思へるけしきなれば、おとこ、あしべよりみちくるしほのいやましにきみに心を思ますかな返し、こもり江に思ふ心をいかでかは舟さすさほのさしてしるべきゐなか人の事にては、よしやあしや。


34

昔、おとこ、つれなかりける人のもとにいへばえにいはねばむねにさはがれてこゝろひとつになげくころ哉おもなくていへるなるべし。


34

むかし、心にもあらでたえたる人のもとにたまのをゝあはおによりてむすべればたえてのゝちもあはむとぞ思


35

むかし、わすれぬるなめりと、ゝひごとしける女のもとに、たにせばみゝねまではへるたまかづらたえむと人にわがおもはなくに


36

むかし、おとこ、いろごのみなりける女にあへりけり。うしろめたくやおもひけむ。我ならでしたひもとくなあさがほのゆふかげまたぬ花にはありとも返し、ふたりしてむすびしひもをひとりしてあひ見るまではとかじとぞ思


37

むかし、紀の有つねがりいきたるに、ありきてをそくきけるに、よみてやりける。きみによりおもひならひぬ世中の人はこれをやこひといふらむ返し、ならはねば世の人ごとになにをかもこひとはいふとゝひしわれしも


38

むかし、さいゐんのみかどゝ申すみかどおはしましけり。そのみかどのみこ、たかいこと申すいまそかりけり。そのみこうせたまひて、おほむはふりの夜、その宮のとなりなりけるおとこ、御はふり見むとて、女くるまにあひのりていでたりけり。いとひさしうゐていでたてまつらず。うちなきて、やみぬべかりかるあひだに、あめのしたのいろこのみ、源のいたるといふ人、これもゝの見るに、この車を女くるまと見て、よりきてとかくなまめくあひだに、かのいたる、ほたるをとりて、女のくるまにいれたりけるを、くるまなりける人、このほたるのともす火にや見ゆるらむ、ともしけちなむずるとて、のれるおとこのよめる。いでゝいなばかぎりなるべみともしけち年へぬるかとなくこゑをきけかのいたる、かへし、いとあはれなくぞきこゆるともしけちきゆる物とも我はしらずなあめのしたのいろごのみのうたにては、猶ぞ有ける。いたるは、したがふがおほぢ也。みこのほいなし。


39

むかし、わかきおとこ、けしうはあらぬ女を思ひけり。さかしらするおやありて、おもひもぞつくとて、この女をほかへをひやらむとす。さこそいへ、いまだをいやらず。人のこなれば、まだこゝろいきおひなかりければ、とゞむるいきおひなし。女もいやしければ、すまふちからなし。さるあひだに、おもひはいやまさりにまさる。にはかにおや、この女をゝひうつ。おとこ、ちのなみだをながせども、とゞむるよしなし。ゐていでゝいぬ。おとこ、なくなくよめる。いでゝいなばたれかわかれのかたからむありしにまさるけふはかなしもとよみてたえいりにけり。おやあはてにけり。猶思ひてこそいひしか、いとかくしもあらじとおもふに、しんじちにたえいりにければ、まどひて願たてけり。けふのいりあひ許にたえいりて、又の日のいぬの時ばかりになむ、からうじていきいでたりける。むかしのわか人は、さるすける物おもひをなむしける。いまのおきな、まさにしなむや


40

昔、女はらからふたりありけり。ひとりはいやしきおとこのまづしき、ひとりはあてなるおとこもたりけり。いやしきおとこもたる、しはすのつごもりに、うへのきぬをあらひてゝづからはりけり。心ざしはいたしけれど、さるいやしきわざもならはざりければ、うへのきぬのかたをはりやりてけり。せむかたもなくて、たゞなきになきけり。これをかのあてなるおとこきゝて、いと心ぐるしかりければ、いときよらなるろうさうのうへのきぬを、見いでゝやるとて、むらさきのいろこき時はめもはるにのなるくさ木ぞわかれざりけるむさしのゝ心なるべし。


41

昔、おとこ、いろごのみとしるしる、女をあひいへりけり。されどにくゝはたあらざりけり。しばしばいきけれど、猶いとうしろめたく、さりとて、いかではたえあるまじかりけり。なをはたえあらざりけるなかなりければふつかみか許、さはることありて、えいかでかくなむ。いでゝこしあとだにいまだかはらじをたがゝよひぢといまはなるらむものうたがはしさによめるなりけり。


42

むかし、かやのみこと申すみこおはしましけり。そのみこ、女をおぼしめして、いとかしこくめぐみつかうたまひけるを、人なまめきてありけるを、われのみと思けるを、又人きゝつけてふみやる。ほとゝぎすのかたをかきて、ほとゝぎすながなくさとのあまたあれば猶うとまれぬ思ふものからといへり。この女、けしきをとりて、名のみたつしでのたおさはけさぞなくいほりあまたとうとまれぬれば時はさ月になむありける。おとこ、返し、いほりおほきしでのたおさは猶たのむわがすむさとにこゑしたえずは


43

むかし、あがたへゆく人にむまのはなむけせむとて、よびて、うとき人にしあらざりければ、いゑとうじさか月さゝせて、女のさうぞくかづけむとす。あるじのおとこ、うたよみて、ものこしにゆひつけさす。いでゝゆくきみがためにとぬぎつれは我さへもなくなりぬべきかなこのうたは、あるがなかにおもしろければ、心とゞめてよます、はらにあぢはひて。


44

むかし、おとこありけり。人のむすめのかしづく、いかでこのおとこにものいはむと思けり。うちいでむことかたくやありけむ、ものやみになりて、しぬべき時に、かくこそ思ひしか、といひけるを、おやきゝつけて、なくなくつげたりければ、まどひきたりけれどしにければ、つれづれとこもりをりけり。時はみな月のつごもり、いとあつきころをひに、よゐはあそびをりて、夜ふけて、やゝすゞしき風ふきけり。ほたるたかうとびあがる。このおとこ、見ふせりて、ゆくほたる雲のうへまでいぬべくは秋風吹とかりにつげこせくれがたき夏のひぐらしながむればそのことゝなくものぞかなしき。


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