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Ise Monogatari. Часть II


11 янв 2008. Разместил: Vadim
Дополнительное чтение по японскому языку.
Уровень сложности - высокий.

伊勢物語(群書類従物語部) - Часть 2

Исэ Моноготари

 

Часть 1 Часть 2 Часть 3


46

むかし、おとこ、いとうるはしきともありけり。かた時さらずあひおもひけるを、人のくにへいきけるを、いとあはれと思て、わかれにけり。月日へてをこせたるふみに、あさましくえたいめんせで、月日のへにけること、わすれやしたまひにけむといたくおもひわびてなむ侍。世中の人の心は、めかるればわすれぬべきものにこそあれめ、といへりければ、よみてやる。

めかるともおもほえなくにわすらるゝ時しなければおもかげにたつ


47

むかし、おとこ、ねむごろにいかでと思女ありけり。されど、このおとこをあだなりときゝて、つれなさのみまさりつゝいへる。

おほぬさのひくてあまたになりぬれば思へどえこそたのまざりけれ返し、おとこ、おほぬさと名にこそたてれながれてもつゐによるせはありといふものを


48

むかし、おとこありけり。むまのはなむけせむとて、人をまちけるに、こざりければ、いまぞしるくるしき物と人またむさとをばかれずとふべかりけり


49

むかし、おとこ、いもうとのいとおかしげなりけるを見をりて、うらわかみねよげに見ゆるわかくさを人のむすばむことをしぞ思ときこえけり。返し、はつくさのなどめづらしきことのはぞうらなくものをおもひけるかな


50

むかし、おとこ有けり。うらむる人をうらみて、とりのこをとをづゝとをはかさぬともおもはぬ人を思ふものかはといへりければあさつゆはきえのこりてもありぬべしたれかこのよをたのみはつべき又、おとこ、ふくかぜにこぞのさくらはちらずともあなたのみがた人の心は又、女、返し、ゆく水にかずかくよりもはかなきはおもはぬひとをおもふなりけり又、おとこ、行みづとすぐるよはひとちる花といづれまてゝふことをきくらむあだくらべ、かたみにしけるおとこ女の、しのびありきしけることなるべし。


51

むかし、おとこ、人のせんざいにきくうへけるに、うへしうへば秋なき時やさかざらむ花こそちらめねさへかれめや


52

むかし、おとこありけり。人のもとよりかざりちまきをゝこせたりける返ごとにあやめかりきみはぬまにぞまどひける我は野にいでゝかるぞわびしきとて、きじをなむやりける。


53

むかし、おとこ、あひがたき女にあひて、物がたりなどするほどに、とりのなきければ、いかでかは鳥のなくらむ人しれずおもふ心はまだよふかきに


54

むかし、おとこ、つれなかりける女にいひやりける。ゆきやらぬゆめ地をたどるたもとにはあまつそらなるつゆやをくらむ


55

むかし、おとこ、思ひかけたる女の、えうまじうなりてのよに、おもはずはありもすらめどことのはのをりふしごとにたのまるゝかな


56

昔、おとこ、ふしておもひおきておもひ、おもひあまりて、わが袖は草のいほりにあらねどもくるればつゆのやどりなりけり


57

むかし、おとこ、人しれぬ物思ひけり。つれなき人のもとに、こひわびぬあまのかるもにやどるてふ我から身をもくだきつるかな


58

むかし、心つきていろごのみなるをとこ、ながをかといふ所に、いゑつくりてをりけり。そこのとなりとなりける宮はらに、こともなき女どもの、ゐなかなりければ、田からむとて、このをとこのあるを見て、いみじのすきものゝしわざやとて、あつまりていりきければ、このおとこ、にげておくにかくれにければ、女、あれにけりあはれいく世のやどなれやすみけむ人のをとづれもせぬといひて、この宮にあつまりきゐてありければ、おとこむぐらおひてあれたるやどのうれたきはかりにもおにのすだくなりけりとてなむいだしたりける。この女ども、ほひろはむといひければ、うちわびておちぼひろふときかませばわれもたづらにゆかましものを


59

むかし、おとこ、京をいかゞおもひけむ、ひむがし山にすまむとおもひいりて、すみわびぬいまはかぎりと山ざとに身をかくすべきやどもとめてむかくて、物いたくやみて、しにいりたりければ、おもてに水そゝぎなどして、いきいでゝ、わがうへにつゆぞをくなるあまのかはとわたるふねのかいのしづくかとなむいひて、いきいでたりける。


60

昔、をとこ有けり。宮づかへいそがしく、心もまめならざりけるほどのいへとうじ、まめにおもはむといふ人につきて、人のくにへいにけり。このおとこ、宇佐のつかひにていきけるに、あるくにのしぞうの官人のめにてなむあるときゝて、女あるじにかはらけとらせよ、さらずはのまじ、といひければ、かはらけとりていだしたりけるに、さかなゝりけるたちばなをとりて、さ月まつ花たちばなのかをかげば昔の人の袖のかぞするといひけるにぞ思ひいでゝ、あまになりて、山にいりてぞありける。


61

むかし、をとこ、つくしまでいきたりけるに、これはいろこのむといふすき物とすだれのうちなる人のいひけるをきゝて、そめがはをわたらむ人のいかでかはいろになるてふことのなからむ女、返し、名にしおはゞあだにぞあるべきたはれじまなみのぬれぎぬきるといふなり


62

むかし、年ごろをとづれざりける女、心かしこくやあらざりけむ、はかなき人の事につきて、人のくになりける人につかはれて、もと見し人のまへにいできて、物くはせなどしけり。よさり、この有つる人たまへ、とあるじにいひければ、をこせたりけり。おとこ、われをばしるやとて、いにしへのにほひはいづらさくらばなこけるからともなりにけるかなといふをいとはづかしと思ひて、いらへもせでゐたるを、などいらへもせぬといへば、なみだのこぼるゝにめを見えず、物もいはれず、といふ。

これやこの我にあふみをのがれつゝ年月ふれどまさりがほなみといひて、きぬゝぎてとらせけれど、すてゝにげにけり。いづちいぬらむともしらず。


63

むかし、世心づける女、いかで心なさけあらむおとこにあひえてしがなとおもへど、いひいでむもたよりなさに、まことならぬゆめがたりをす。子三人をよびてかたりけり。ふたりのこは、なさけなくいらへてやみぬ。さぶらうなりける子なむ、よき御おとこぞいでこむ、とあはするに、この女けしきいとよし。こと人はいとなさけなし。いかでこの在五中将にあはせてしがなと思ふ心あり、かりしありきけるに、いきあひて、道にてむまのくちをとりて、かうかうなむ思ふ、といひければ、あはれがりて、きてねにけり。さてのち、おとこ見えざりければ女、おとこのいゑにいきてかいまみけるを、をとこほのかに見て、もゝとせにひとゝせたらぬつくもがみわれをこふらしおもかげに見ゆとていでたつけしきを見て、むばら、からたちにかゝりて、いゑにきてうちふせり。おとこ、かの女のせしやうにしのびてたてりて見れば、女なげきてぬとて、狭席に衣片敷今夜もや恋しき人にあはでのみねむとよみけるを、ゝとこあはれと思ひて、そのよはねにけり。世中のれいとして、おもふをば思ひ、おもはぬをばおもはぬものを、この人は、思ふをもおもはぬをも、けぢめ見せぬ心なむ有りける。


64

昔、おとこ女、みそかにかたらふわざもせざりければ、いづくなりけむ、あやしさによめる。吹風にわが身をなさば玉すだれひまもとめつゝいるべきものを返し、とりとめぬ風にはありともたますだれたがゆるさばかひまもとむべき


65

むかし、おほやけおぼして、つかうたまふ女の、いろゆるされたるありけり。おほみやすん所とていますかりけるいとこなりけり。殿上にさぶらひけるありはらなりけるおとこの、まだいとわかゝりけるを、この女あひしりたりけり。おとこ、女がたゆるされたりければ、女のある所にきて、むかひをりければ、女、いとかたはなり、身もほろびなむ、かくなせそ、といひければ、おもふにはしのぶることぞまけにけるあふにしかへばさもあらばあれといひて、ざうしにおりたまへれば、れいのこのみざうしには、人の見るをもしらでのぼりゐければ、この女、おもひわびてさとへゆく。されば、なにのよき事と思ひて、いきかよひければ、みなひときゝてわらひけり。つとめて、とのもづかさの見るに、くつはとりて、おくになげいれてのぼりぬ。かくかたはにしつゝありわたるに、身もいたづらになりぬべければ、つゐにほろびぬべしとて、このおとこ、いかにせむ、わがかゝるこゝろやめたまへと、ほとけ神にも申けれど、いやまさりにのみおぼえつゝ、なをわりなくこひしうのみおぼえければ、おむやうじ、かむなぎよびて、こひせじといふはらへのぐしてなむいきける。はらへけるまゝに、いとかなしきことかずまさりて、ありしよりけにこひしくのみおぼえければ恋せじとみたらしがはにせしみそぎ神はうけずもなりにけるかなといひてなむいにける。このみかどはかほかたちよくおはしまして、ほとけの御なを御心にいれて、御こゑはいとたうとくて申たまふをきゝて、女はいたうなきけり。かゝるきみにつかうまつらで、すくせつたなくかなしきこと、このおとこにほだされてとてなむなきける。かゝるほどに、みかどきこしめしつけて、このおとこをば、ながしつかはしてければ、この女のいとこのみやすどころ、女をばまかでさせて、くらにこめてしおりたまふければ、くらにこもりてなく。

あまのかるもにすむゝしのわれからとねをこそなかめ世をばうらみじとなきをれば、このおとこは、人のくにより夜ごとにきつゝ、ふえをいとおもしろくふきて、こゑはおかしうてぞあはれにうたひける。かゝれば、この女はくらにこもりながら、それにぞあなるとはきけど、あひ見るべきにもあらでなむありける。

さりともと思ふらむこそかなしけれあるにもあらぬ身をしらずしてとおもひをり。おとこは女しあはねば、かくしありきつゝ、人のくにゝありきてかくうたふ。いたづらにゆきてはきぬるものゆへに見まくほしさにいざなはれつゝ水のおの御時なるべし。おほみやすん所もそめどのゝきさきなり。五条のきさきとも。


66

むかし、おとこ、つのくにゝしる所ありけるに、あにおとゝともだちひきゐて、なにはの方にいきけり。なぎさを見れば、舟どものあるを見て、なにはづをけさこそみつのうらごとにこれやこの世をうみわたる舟これをあはれがりて、人々かへりにけり。


67

昔、男、せうえうしに、おもふどちかいつらねて、いづみのくにへきさらぎ許にいきけり。かうちのくに、いこまの山を見れば、くもりみ、はれみ、たちゐるくもやまず、あしたよりくもりて、ひるはれたり。雪いとしろう木のすゑにふりたり。それを見て、かのゆく人のなかに、たゞひとりよみける。昨日けふ雲のたちまひかくろふは花の林をうしとなりけり


68

むかし、おとこ、いづみのくにへいきけり。すみよしのこほり、すみよしのさと、すみよしのはまをゆくに、いとおもしろければ、おりゐつゝゆく。ある人、すみよしのはまとよめといふ。鴈なきて菊の花さく秋はあれどはるのうみべにすみよしのはまとよめりければ、みな人々よまずなりにけり。


69

昔、おとこ有けり。そのおとこ、伊勢のくにゝかりのつかひにいきけるに、かのいせの斎宮なりける人のおや、つねのつかひよりは、この人よくいたはれ、といひやれりければ、おやのことなりければ、いとねむごろにいたはりけり。あしたにはかりにいだしたてゝやり、ゆふさりはかへりつゝ、そこにこさせけり。かくてねむごろにいたづきけり。二日といふ夜、おとこ、われてあはむ、といふ。女もはた、あはじともおもへらず。されど、人めしげゝればえあはず。つかひざねとある人なれば、とをくもやどさず、女のねやもちかくありければ、女、ひとをしづめて、ねひとつ許に、おとこのもとにきたりけり。おとこ、はたねられざりければ、との方を見いだしてふせるに、月のおぼろげなるに、ちひさきわらはをさきにたてゝ、人たてり。おとこ、いとうれしくて、わがぬるところにゐていりて、ねひとつより、うしみつまであるに、まだなにごともかたらはぬにかへりにけり。おとこ、いとかなしくて、ねずなりにけり。つとめて、いぶかしけれど、わが人をやるべきにしあらねば、いと心もとなくてまちをれば、あけはなれてしばしあるに、女のもとより、ことばゝなくて、きみやこしわれやゆきけむおもほえず夢かうつゝかねてかさめてかおとこ、いといたうなきてよめる。

かきくらす心のやみにまどひにきゆめうつゝとはこよひさだめよとよみてやりて、かりにいでぬ。野にありけど心はそらにて、こよひだに人しづめて、いととくあはむとおもふに、くにのかみ、いつきの宮のかみかけたる、かりのつかひありときゝて、よひとよ、さけのみしければ、もはらあひ事もえせで、あけばおはりのくにへたちなむとすれば、おとこも人しれずちのなみだをながせど、えあはず。夜やうやうあけなむとするほどに、女がたよりいだすさかづきのさらに、うたをかきていだしたり。とりて見れば、かち人のわたれどぬれぬえにしあればとかきて、すゑはなし。そのさか月のさらに、ついまつのすみして、うたのすゑをかきつぐ。又あふさかのせきはこえなむとて、あくればおはりのくにへこえにけり。斎宮は水のおの御時。文徳天皇の御女、これたかのみこのいもうと。


70

むかし、おとこ、かりのつかひよりかへりきけるに、おほよどのわたりにやどりて、いつきの宮のわらはべにいひかけゝる。

みるめかる方やいづこぞさおさしてわれにをしへよあまのつりぶね


71

むかし、おとこ、伊勢の斎宮に、内の御つかひにてまいれりければ、かの宮にすきごといひける女、わたくし事にて、ちはやぶる神のいがきもこえぬべし大宮人の見まくほしさにおとこ、こひしくはきても見よかしちはやぶる神のいさむる道ならなくに


72

むかし、おとこ、伊勢のくになりける女、又えあはで、となりのくにへいくとていみじううらみければ、女おほよどの松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへる浪かな


73

昔、そこにはありときけど、せうそこをだにいふべくもあらぬ女のあたりを思ひける。めには見て手にはとられぬ月のうちのかつらごときゝみにぞありける


74

むかし、おとこ、女をいたうゝらみて、いはねふみかさなる山はへだてねどあはぬ日おほくこひわたるかな


75

むかし、おとこ、伊勢のくにゝゐていきてあらむ、といひければ女、おほよどのはまにおふてふ見るからにこゝろはなぎぬかたらはねどもといひて、ましてつれなかりければ、おとこ、袖ぬれてあまのかりほすわたつうみのみるをあふにてやまむとやする女、いはまよりおふるみるめしつれなくはしほひしほみちかひもありなむ又、おとこ、なみだにぞぬれつゝしぼる世の人のつらき心はそでのしづくか世にあふことかたき女になむ。


76

むかし、二条のきさきの、まだ春宮のみやすん所と申ける時、氏神にまうで給けるに、このゑづかさにさぶらひけるおきな、人々のろくたまはるついでに、御くるまよりたまはりて、よみてたてまつりける。おほはらやをしほの山もけふこそは神世のことも思ひいづらめとて、心にもかなしとや思ひけむ、いかゞ思ひけむ、しらずかし。


77

むかし、田むらのみかどゝ申すみかどおはしましけり。その時の女御、たかきこと申すみまそかりけり。それうせたまひて、安祥寺にて、みわざしけり。人々さゝげものたてまつりけり。たてまつりあつめたる物、ちさゝげばかりあり。そこばくのさゝげものを木のえだにつけて、だうのまへにたてたれば、山もさらにだうのまへにうごきいでたるやうになむ見えける。それを、右大将にいまそかりけるふぢはらのつねゆきと申すいまそかりて、かうのをはるほどに、うたよむ人々をめしあつめて、けふのみわざを題にて、春の心ばえあるうたゝてまつらせ給。右のむまのかみなりけるおきな、めはたがひながらよみける。

山のみなうつりてけふにあふことははるのわかれをとふとなるべしとよみたりけるを、いま見ればよくもあらざりけり。そのかみはこれやまさりけむ、あはれがりけり。


78

むかし、たかきこと申す女御おはしましけり。うせ給て、なゝなぬかのみわざ安祥寺にてしけり。右大将ふぢはらのつねゆきといふ人いまそかりけり。そのみわざにまうで給ひて、かへさに山しなのぜんじのみこおはします、その山しなの宮に、たきおとし、水はしらせなどして、おもしろくつくられたるにまうでたまうて、としごろよそにはつかうまつれど、ちかくはいまだつかうまつらず。こよひはこゝにさぶらはむ、と申したまふ。みこよろこびたまうて、よるのおましのまうけせさせたまふ。さるに、この大将、いでゝたばかりたまふやう、宮づかへのはじめに、たゞなをやはあるべき。三条のおほみゆきせし時、きのくにの千里のはまにありける、いとおもしろきいしたてまつれりき。おほみゆきのゝちたてまつれりしかば、ある人のみざうしのまへのみぞにすへたりしを、しまこのみたまふきみなり。このいしをたてまつらむ、とのたまひて、みずいじん、とねりしてとりにつかはす。いくばくもなくてもてきぬ。このいし、きゝしよりは、見るはまされり。これをたゞにたてまつらばすゞろなるべしとて、人ゞにうたをよませたまふ。みぎのむまのかみなりける人のをなむ、あおきこけをきざみて、まきゑのかたにこのうたをつけてたてまつりける。

あかねどもいはにぞかふるいろ見えぬこゝろを見せむよしのなければとなむよめりける。


79

むかし、うぢのなかにみこうまれたまへりけり。御うぶやに人々うたよみけり。御おほぢがたなりけるおきなのよめる。

わがゝどにちひろあるかげをうへつればなつふゆたれかゝくれざるべきこれはさだかずのみこ、時の人、中将のことなむいひける。あにの中納言、ゆきはらのむすめのはら也。


80

むかし、おとろへたるいへに、ふぢのはなうへたる人ありけり。やよひのつごもりに、その日あめそぼふるに、人のもとへおりてたてまつらすとてよめる。


81

むかし、左のおほいまうちぎみいまそかりけり。かもがはのほとりに、六条わたりに、家をいとおもしろくつくりてすみたまひけり。神な月のつごもりかた、きくの花うつろひさかりなるに、もみぢのちぐさに見ゆるおり、みこたちおはしまさせて、夜ひとよさけのみしあそびて、夜あけもてゆくほどに、このとのゝおもしろきをほむるうたよむ。そこにありけるかたゐをきな、いたじきのしたにはひありきて、人にみなよませはてゝよめる。

しほがまにいつかきにけむあさなぎにつりする舟はこゝによらなむとなむよみける。みちのくにゝいきたりけるに、あやしくおもしろきところどころおほかりけり。わがみかど六十よこくの中に、しほがまといふ所にゝたるところなかりけり。さればなむ、かのおきなさらにこゝをめでゝ、しほがまにいつかきにけむとよめりける。


82

むかし、これたかのみこと申すみこおはしましけり。山ざきのあなたに、みなせといふ所に宮ありけり。年ごとのさくらの花ざかりには、その宮へなむおはしましける。その時、みぎのむまのかみなりける人を、つねにゐておはしましけり。時よへてひさしくなりにければ、その人の名わすれにけり。かりはねむごろにもせで、さけをのみのみつゝ、やまとうたにかゝれりけり。いまかりするかたのゝなぎさのいへ、そのゐんのさくらことにおもしろし。その木のもとにおりゐて、えだをおりてかざしにさして、かみなかしも、みなうたよみけり、うまのかみなりける人のよめる、世中にたえてさくらのなかりせば春のこゝろはのどけからましとなむよみたりける。又人のうた、ちればこそいとゞさくらはめでたけれうき世になにかひさしかるべきとて、その木のもとはたちてかへるに、日ぐれになりぬ。御ともなる人、さけをもたせて野よりいできたり。このさけをのみてむとて、よきところをもとめゆくに、あまのがはといふ所にいたりぬ。みこにむまのかみおほみきまいる。みこのゝたまひける。かたのをかりて、あまのがはのほとりにいたるをだいにて、うたよみてさかづきはさせ、とのたまうければ、かのむまのかみよみてたてまつりける。かりくらしたなばたつめにやどからむあまのかはらにわれはきにけりみこ、哥を返ゞずじたまうて、返しえしたまはず、きのありつね御ともにつかうまつれり。それが返し、ひとゝせにひとたびきますきみまてばやどかす人もあらじとぞ思かへりて宮にいらせたまひぬ。夜ふくるまでさけのみものがたりして、あるじのみこ、ゑひていりたまひなむとす。十一日の月もかくれなむとすれば、かのむまのかみのよめる。


83

むかし、みなせにかよひたまひしこれたかのみこ、れいのかりしにおはしますともに、うまのかみなるおきなつかうまつれり。日ごろへて、宮にかへりたまうけり。御をくりしてとくいなむと思に、おほみきたまひ、ろくたまはむとて、つかはさゞりけり。このむまのかみ心もとながりて、まくらとてくさひきむすぶ事もせじ秋の夜とだにたのまれなくにとよみける。時はやよひのつごもりなりけり。みこ、おほとのごもらであかしたまうてけり。かくしつゝまうでつかうまつりけるを、おもひのほかに、御ぐしおろしたまうてけり。む月におがみたてまつらむとて、をのにまうでたるに、ひえの山のふもとなれば、雪いとたかし。しゐてみむろにまうでゝおがみたてまつるに、つれづれといとものがなしくておはしましければ、やゝひさしくさぶらひて、いにしへの事など思ひいでゝきこえけり。さてもさぶらひてしがなとおもへど、おほやけごとゞもありければ、えさぶらはで、ゆふぐれにかへるとて、わすれてはゆめかとぞ思ふおもひきや雪ふみわけてきみを見むとはとてなむなくなくきにける。


84

むかし、おとこありけり。身はいやしながら、はゝなむ宮なりける。そのはゝ、ながをかといふ所にすみ給けり。子は京に宮づかへしければ、まうづとしけれど、しばしばえまうでず。ひとつごにさへありければ、いとかなしうしたまひけり。さるに、しはす許に、とみの事とて御ふみあり。おどろきて見れば、うたあり。

おいぬればさらぬわかれのありといへばいよいよ見まくほしきゝみかなかの子、いたうゝちなきてよめる。

世中にさらぬわかれのなくもがな千世もといのる人のこのため。


85

むかし、おとこありけり。わらはよりつかうまつりけるきみ、御ぐしおろしたまうてけり。む月にはかならずまうでけり。おほやけの宮づかへしければ、つねにはえまうでず。されど、もとの心うしなはでまうでけるになむありける。むかしつかうまつりし人、ぞくなる、ぜんじなる、あまたまいりあつまりて、む月なれば事だつとて、おほみきたまひけり。ゆきこぼすがごとふりて、ひねもすにやまず。みな人ゑひて、雪にふりこめられたり、といふを題にて、うたありけり。

おもへども身をしわけねばめかれせぬゆきのつもるぞわが心なるとよめりければ、みこいといたうあはれがりたまうて、御ぞぬぎてたまへりけり。


86

むかし、いとわかきおとこ、わかき女をあひいへりけり。をのをのおやありければ、つゝみていひさしてやみにけり。年ごろへて女のもとに、猶心ざしはたさむとや思ひけむ、おとこ、うたをよみてやれりける。

今までにわすれぬ人は世にもあらじをのがさまざまとしのへぬればとてやみにけり。おとこも女も、あひはなれぬ宮づかへになむいでにける。


87

昔、男、つのくにむばらのこほり、あしやのさとにしるよしゝて、いきてすみけり。むかしのうたに、あしのやのなだのしほやきいとまなみつげのをぐしもさゝずきにけりとよみけるぞ、このさとをよみける。こゝをなむあしやのなだとはいひける。このおとこ、なまみやづかへしければ、それをたよりにて、ゑふのすけどもあつまりきにけり。このおとこのこのかみもゑふのかみなりけり。そのいへのまへの海のほとりにあそびありきて、いざ、この山のかみにありといふ、ぬのびきのたき見にのぼらむ、といひてのぼりて見るに、そのたき、物よりことなり。ながさ二十丈、ひろさ五丈ばかりなるいしのおもてに、しらぎぬにいはをつゝめらむやうになむありける。さるたきのかみに、わらうだのおほきさして、さしいでたるいしあり。そのいしのうへにはしりかゝる水は、せうかうじ、くりのおほきさにてこぼれおつ。そこなる人にみなたきのうたよます。かのゑふのかみまづよむ。

わが世をばけふかあすかとまつかひの涙のたきといづれたかけむあるじ、つぎによむ。

ぬきみだる人こそあるらしゝらたまのまなくもちるかそでのせばきにとよめりければ、かたへの人、わらふ事にやありけむ、このうたにめでゝやみにけり。かへりくるみちとをくて、うせにし宮内卿もちよしが家のまへくるに、日くれぬ。やどりのかたを見やれば、あまのいさりする火、おほく見ゆるに、かのあるじのおとこよむ。

はるゝ夜のほしか河辺のほたるかもわがすむ方にあまのたく火かとよみて、家にかへりきぬ。その夜、みなみのかぜふきて、なみいとたかし。つとめて、その家のめのこどもいでゝ、うきみるの浪によせられたるひろひて、いへのうちにもてきぬ。女がたより、そのみるをたかつきにもりて、かしはをおほひていだしたる、かしはにかけり。わたつうみのかざしにさすといはふもゝきみがためにはおしまざりけりゐなかびとのうたにては、あまれりやたらずや。


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